地域在住高齢者の転倒を予測するには筋力それとも○○？

この投稿は、『～兵庫高齢者特化型の介護予防・転倒予防～訪問リハビリ整体院リ・サンテ宝塚』が高齢者のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、高齢者の転倒・介護予防に興味がある方に向けエビデンス情報を発信します。少しでも皆様のお役に立てればなと思っています。

今回は、「地域在住高齢者の転倒を予測するには筋力それとも筋パワー？」についてと言うテーマでお送りしていきたいと思っています。

転倒は、世界中の高齢者の身体的損傷及び損傷関連死亡の主要原因であり、不必要または予防可能な入院を増加させ、社会及び医療制度に大きな財政負担となります。

また、高齢者の転倒の危険性や経験が自立した生活を維持するために有害な影響を与えるため転倒を減らすことが不可欠です。この転倒を減らすための予防の1つは、転倒リスクの高い高齢者を正確に特定することが必要です。

今、高齢者のリハビリに携わる方や、予防分野に携わる方のアプローチの一助になれればと思います。

地域在住高齢者の転倒を予測するには筋力それとも筋パワー？

地域在住高齢者の転倒を予測するには筋力それとも筋パワー？

本日紹介する論文

参考文献

Muscle power is more important than strength in preventing falls in community-dwelling older adults.Journal of Biomechanics.Volume 134, March 2022

研究の目的

ある研究では、サルコペニア（筋肉量と筋力の低下）は転倒の危険因子であり、加齢による筋力とパワーの低下はバランス能力の低下と関係があると報告や、加齢による筋力とパワーの低下は、高齢者の躓きへの反応能力を制限すると言った報告があります。

しかし、高齢者の転倒に対する筋力トレーニングには一貫した効果がないとの報告もあります。

転倒予防における筋力とパワーの重要性を正しく理解することは、高齢者に対する効果的な転倒予防介入をするための新しい観点を提供することができる可能性がある。

転倒リスクの高い高齢者を正確に特定するために

①地域地域在住の高齢者の日常生活状況における転倒者（単発・再発を含む）の予測因子として、筋力と筋パワーのどちらが優れているかを明らかにすること。

②転倒者と非転倒者を最もよく区別するために、筋力と筋パワーでの転倒予測因子の最適なカットオフ値を定めること。

対象

65歳以上の健康な高齢者94名（72.0±5.5歳）

・筋骨格系障害、神経系障害、整形外科的疾患、心血管系疾患の既往がない者。

・認知機能に障害のある参加者（Mini-mental State ExamまたはMMSEスコア＜25）は除外。

方法

過去1年間の転倒の有無を回答して頂く。

その後

筋力は膝伸筋と膝屈筋の等尺性筋力を評価。

筋パワーは、5回の座位-立位（STS）テストに要した時間で評価。

※高齢者の椅子からの立ち上がり能力（筋パワー）は転倒の指標であると報告されており、別の研究では、座位から立ち上がり（STS）の試験時間が長い高齢者は、転倒しやすいとされています。

結果

56名が前年に転倒しなかったが、38名が過去に１回の転倒を報告した。この転倒のうちほとんどの転倒は屋外で発生していた。

膝伸展筋および膝屈曲筋の筋力については、非転倒者と転倒者の間に有意差は認められなかった。

非転倒者は転倒者よりもSTSテストの所要時間が短く脚筋力をより速く発揮した。

転倒者と非転倒者の判別に最適な脚筋力とSTS持続時間のカットオフ値

●筋力：1.3W/（kg×m）

●5回の座位-立位（STS）テスト（筋パワー）：12秒

結果

地域在住の高齢者において、STS脚筋力（筋パワー）は筋力よりも日常生活の転倒を予測することが示唆された。

まとめ

まとめです。

筋パワーは筋力と収縮速度の積であるため、仕事を行う速度を反映しています。

転倒は躓きの直後に発生するため、転倒を予防させるためには、バランス損失に対する迅速な反応が必要です。転倒を止めるのに十分の筋力の強さが必要ですが、この力を素早く出せないことは転倒に繋がります。このことから、高齢者の転倒予防には筋力よりも筋パワーに着目したトレーニング方法を立案する必要があるかもしれません。